若い女の頭部
Study of a Young Woman / メトロポリタン美術館
館の学芸員は、この絵を17世紀の部屋に掛けてみるよう勧めている。窓から入るわずかな光か、蝋燭の明かりだけの部屋である。そこでは額の枠が窓の枠に見え、女はその向こう側に立っているように見えたかもしれない、というのである。暗い背景は、そのための奥行きになる。この絵は、掛かる場所まで見越して塗られていたことになる。
何が描かれているか
若い女が肩ごしに振り返り、こちらを見ている。背景は暗く、顔だけが浮かび上がる。口もとにわずかな笑みがある。
肩には淡い青灰色の布を掛け、首もとに白い襟をのぞかせている。耳には真珠の飾り。頭の後ろから、淡い黄みの布が背中へ落ちている。
左上の隅に、組み合わせた文字の署名がある。画面の全体に細かいひび割れが走っていて、顔にもその網の目が見える。
なぜ重要か
館によれば、この絵は肖像として注文されたものではない。トロニーと呼ばれる、目を引く顔を描いた絵である。実在の誰かに似せることが目的ではなく、集める人の目に留まるために描かれた。
同じ頃、フェルメールはよく似た絵を二枚描いている。ワシントンの《赤い帽子の女》と、デン・ハーグの《真珠の耳飾りの少女》である。館の学芸員は、この絵の女の方が、あの有名な少女よりもさらに一人の人らしく描かれているかもしれない、と言っている。
この女が誰なのかは分かっていない。ただし館の学芸員は、これは実在の人物にちがいない、とも言っている。型を描いた絵でありながら、顔は一人の人のものになっている。
制作背景
衣裳は、当時のオランダの人には異国風に見えたはずだと館は書く。中東のあたりを思わせる装いだったのではないか、という見方である。
トロニーに描かれる顔は、美しいものとはかぎらなかった。醜いもの、老いたもの、若いもの、どれもが集められた。目を引く人物であれば、それでよかったのである。
この絵が館に入ったのは1979年、ライトスマン夫妻からの寄贈による。同館の絵画部門を率いた人物を記念したものである。
館はこの絵を、1665年から67年頃のものとしている。《赤い帽子の女》と《真珠の耳飾りの少女》が描かれたのと、ほぼ同じ時期である。
出典:メトロポリタン美術館 作品ページ(2026-08-29 確認)