1889年
黄色い麦畑の向こうに低い山なみ、右寄りに濃い緑の糸杉が立つ。空には白い雲が渦を巻く。
麦畑と糸杉いとすぎ
Wheat Field with Cypresses / メトロポリタン美術館
気に入った1枚を、後から部屋の中で静かに描き直す。それが彼のやり方だった。この絵も9月にもう2度描き直している。もとは野外で、目の前の自然から直接描いたものである。厚く重ねた絵の具が、吹きつける風と午後の暑さをそのまま伝えてくる。空は「スコットランドの格子縞こうしじまみたいだ」とも書いている。本人はこれを、自分の夏の風景画のなかで最良のひとつに数えていた。
何が描かれているか
黄色い麦畑の向こうに低い山なみ、右寄りに濃い緑の糸杉が立っている。空には白い雲がうずを巻き、手前の茂みは風になびいている。
筆の跡が生きている。厚く重ねた絵の具が、吹きつける風、揺れる木と麦、午後の強い暑さをそのまま伝えてくる。その場ですぐ描いた絵にしか出ない速さがある。実際ゴッホは、この風景を野外で、目の前の自然から直接描いている。
ゴッホは弟テオへの手紙で、この空を「スコットランドの格子縞みたいだ」と言っている。そして自分の夏の風景画のなかで「最良」のひとつだと書いた。
なぜ重要か
ゴッホがこの絵を気に入っていたことは、その後の行動でも分かる。9月に、彼はこの構図こうずをもう2度描き直している。1点は同じ大きさで(ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵)、もう1点は小さな複製ふくせいで、母と妹への贈り物として描かれた。
野外でその場を写した絵と、部屋の中で描き直した絵。ゴッホの絵には、この2種類がある。この作品は前者、つまり現場で一気に描いたほうにあたる。生々しさがそこから来ている。気に入った1枚は、後から静かに描き直す——それが彼のやり方だった。
制作背景
1889年6月末、36歳。サン=レミの療養所りょうようじょにいた時期に、野外で描かれた。
この年の6月末、ゴッホは糸杉を最初の連作れんさくの題材にすると決めた。厚くった絵の具が特徴の、その場で描いた習作しゅうさくが何点も残っている。縦長で木に近づいた《糸杉》と、この横長の大きな構図は、その代表である。
7月2日、彼はこの絵をあしペンの素描そびょうにして弟テオに送っている。葦ペンは、葦の茎を削って作った筆記具である。何を描いたかを言葉ではなく、絵そのもので伝えるやり方だった。
寸法
73.2 × 93.4 cm
材質・技法
カンヴァスに油彩ゆさい
所蔵
メトロポリタン美術館(ニューヨーク)822室
目録
1993.132
出典:メトロポリタン美術館 作品ページ2026-08-29 確認)