縞模様の衣装を着たメズタンが、ギターを弾きながら顔を上げている。恋の歌を届けるような身ぶりに対し、後ろの女性像は背を向けたまま。喜劇の役柄を描きながら、届かない気持ちも想像させる小さな絵だ。
何が描かれているか
男性は脚を組んで座り、ギターを抱え、口を開いて顔を上げている。帽子、白い襟、縞模様の上着といった衣装が目印になる。木々の間には、こちらに背を向けた女性の彫像が立っている。
メズタンは、決まった性格や衣装の役柄が登場するイタリアの喜劇、コメディア・デラルテの一人。恋に悩むことも、人の間に入り込むこともある役柄で、単なる実在のギター奏者の肖像ではない。
作品の見どころ
身体は斜めに傾き、脚は交差し、顔は上へ向く。違う方向へ動く部分が一つの姿の中に収まっている。静止画なのに歌いながら揺れているように見えるのは、この不安定な姿勢によるところが大きい。
所蔵館は、背を向けた女性像を、応えてもらえない恋を示すものとして説明している。これは絵の読み方の一つ。まず歌う人の顔から奥の像へ目を動かし、二つの向きの違いを確かめてみよう。
制作背景
メトロポリタン美術館は1718〜1720年頃の制作とする。ヴァトーは舞台の衣装やしぐさを、庭園の風景の中にも取り入れた。この絵も、舞台と日常の境界が曖昧になる作品である。
白や赤みのある服は、暗い木々を背景に浮かび上がる。人物の滑稽さだけを強調せず、一人で何かを訴える姿として見せている点に、ヴァトーの芝居を題材とした絵の奥行きがある。