何が描かれているか
魔女キルケが玉座に座り、正面へ魔法の杯を差し出す。もう一方の手には杖を持つ。
背後の大きな鏡には、杯を受け取るオデュッセウスと船の一部が映る。足元には豚がいる。
背後の大きな鏡には、杯を受け取る位置のオデュッセウスと船が映る。鑑賞者は鏡の前に立つ相手とほぼ同じ場所へ置かれ、キルケの正面を向く視線と差し出す腕を直接受け止める。足元の豚は、すでに変身させられた仲間を示す。
作品の見どころ
キルケを正面から大きく描くため、鑑賞者もオデュッセウスと同じ位置に立たされたように感じる。
鏡は見えない相手を画面に入れ、キルケの視線と差し出す手の力を強める。
鏡の中のオデュッセウスを見つけてから正面のキルケへ戻ると、自分も杯を差し出された位置にいると気づく。鏡は奥行きを作るだけでなく、画面外の相手と鑑賞者を重ねる心理的な仕掛けである。
制作背景
1891年制作。『オデュッセイア』で、キルケが男たちを豚へ変える薬を差し出す場面に基づく。
《オデュッセウスとセイレーン》と同じ年に、誘惑と危険を別の構図で扱った。
ホメロス『オデュッセイア』で、キルケは薬を混ぜた飲み物によって男たちを豚へ変える。鏡に映る相手は構図上の工夫であり、古代の挿絵をそのまま写したものではない。同年の《オデュッセウスとセイレーン》が集団の襲撃を描くのに対し、こちらは一対一の心理的な圧力を作る。