1662年頃
29〜30歳
女が片手で窓を開け、もう片方の手で銀の水差しを持っている。背後の壁に地図。
水差しを持つ女
Young Woman with a Water Pitcher / メトロポリタン美術館
フェルメールの絵は、たいてい同じ部屋で起きている。館の学芸員によれば、家の中に光のよく入る部屋がひとつあって、残っている絵のほとんどは、そこを舞台にしているという。左に見えるこの窓が、その部屋の窓である。同じ窓が、形を少しずつ変えながら、ほかの絵にも出てくる。同じ場所で、光の入り方だけを変えて描き続けたことになる。
何が描かれているか
窓辺に女が立っている。右手を窓枠に掛け、左手は銀の水差しの把手を握っている。水差しは、同じ銀の平たい鉢の上に置かれている。
頭には白い麻の布をかぶり、肩まで垂らしている。上着は黒に近い紺で、金の飾りが入る。裳は深い青。館によれば、これから顔を洗うところで、布は服と髪を濡らさないためのものである。
卓には赤と青の敷物が掛かり、隅に宝石箱が開いたまま置かれている。青い紐が箱から垂れる。右の壁には巻き軸に留めた地図があり、その手前に、青い布を掛けた椅子が見える。
なぜ重要か
1662年頃から65年頃にかけて、フェルメールは女が一人だけの絵を何枚か描いた。館の言い方では、そこにいるのは自分の領分を治めている女たちである。誰かに見られているそぶりがない。
館は、この絵が私生活を覗き見るような感じを与えるとも書いている。人前に出る顔になる前の時間だからである。窓を開けるという、それだけの動作が、そのまま絵になっている。
制作背景
フェルメールの絵で、はじめてアメリカの公共の収蔵品に入ったのがこの一枚である。1889年、ヘンリー・G・マーカンドの寄贈による。
館の学芸員は、光がどう見えるかということが、フェルメールの一貫した関心だったと言っている。水差しと鉢の縁を光が金色に縁どり、そのぶん厚みが出て見える、という見方である。
館の音声案内では、室内の設計を仕事にしている人が、この絵の光は部屋の中を案内してくれるようだ、と話している。どこを見ればよいかを、光の側が順に示してくる、という受け取り方である。
館に入るまでの持ち主は分かっているが、デルフトを離れてからアメリカへ渡るまでのあいだ、この絵がどこにあったのかは、記録がとぎれとぎれである。
寸法
45.7 × 40.6 cm
材質・技法
カンヴァスに油彩ゆさい
所蔵
メトロポリタン美術館(ニューヨーク)
目録
89.15.21
出典:メトロポリタン美術館 作品ページ2026-08-29 確認)