1491/2–99年 および 1506–08年
岩窟の聖母のロンドン版。ルーヴル版とほぼ同じ構図だが、天使は指差さず視線を伏せている。
岩窟がんくつの聖母(ロンドン版)
The Virgin of the Rocks / ナショナル・ギャラリー(ロンドン)
何が描かれているか
岩に覆われた洞窟の中で、聖母マリアと、幼い洗礼者せんれいしゃヨハネと、天使が、幼子おさなごキリストを囲んでひざまずいている。キリストは手を上げて、彼らを祝福している。
植物が体に触れている。ナショナル・ギャラリーは「葉がヨハネの膝とキリストのつま先をくすぐる」と書く。岩は四方から人物を囲い込む。
その岩が変わった形をしている。丸みのある円錐えんすい形で、地の底から噴き上がったばかりのように見える。水は緑がかっていて浅く、湯気のようなかすみがかかる。美術館はこれを「生命の予感に満ちた、よどんだ水たまり」と呼ぶ。
なぜ重要か
この絵は、無原罪むげんざいの御宿りを記念する祭壇画さいだんがの一部だった。教皇がその祝日を公認したのは1477年で、注文はその直後にあたる。主題があまりに新しく、決まった描き方がまだ無かった。ナショナル・ギャラリーは、そのおかげで自由に構図を作れたのだと説明する。
洞窟を選んだことにも理由がある。無原罪の御宿りを支持する人々は「世の初めより前に、私は創られた」という聖句を根拠にした。だから場面は、世界が造られたばかりの時に置かれている。岩も水も、まだ固まりきっていない世界のものだ。
制作背景
この絵は2枚目である。同じ主題の1枚目はいまルーヴル美術館にあり、こちらはその代わりに置かれた。
修復調査で、描かれ方が三期に分かれることが分かった。1490年代の初めに天使の薄いそでから描き始め、数年後にキリストの頭の向きを四分の三から横顔へ変えている。1499年、フランス軍の侵攻を避けてミラノを離れ、絵は放置された。呼び戻されたのは1506年。この時、空に群青を塗り足している。契約書に明記されていた顔料がんりょうである。
下描きの調査で、もうひとつ分かったことがある。最初はまったく違う構図を試していて、後から考えを変え、ルーヴル版とほとんど同じ形に落ち着いた。1枚目と2枚目は、はじめから同じ絵だったわけではない。
寸法
189.5 × 120 cm
材質・技法
板(ポプラ)に油彩ゆさい
所蔵
ナショナル・ギャラリー(ロンドン)
目録
NG1093
出典:ナショナル・ギャラリー(ロンドン)作品ページ2026-08-29 確認)