何が描かれているか
黒に近い背景の前に、十字架へかけられたキリストだけが立つ。頭は前へ傾き、長い髪が顔の右側を覆う。腰の白い布は大きく折り返され、暗い画面の中で身体とともに浮かぶ。
手足から流れる血は細く、周囲に嘆く人物や風景はない。上の札、木の十字架、足元の小さな台までが正面に揃い、左右の動きを抑えた静かな構成になる。
作品の見どころ
強い明暗を使っていても、光は一部だけを激しく照らすのではなく、身体の正面へゆっくり広がる。輪郭の柔らかな影が、平らな黒い背景から身体を立体的に見せる。
物語を説明する人物を省いたことで、見る人はキリストと直接向き合う位置へ置かれる。劇的な身振りより、垂れた頭、閉じた手、白い布の重さを時間をかけて見る作品である。
制作背景
1632年頃に制作された油彩画で、プラド美術館がP001167として所蔵する。第1回イタリア旅行から戻った後の宗教画にあたる。
プラドには別の小型の《十字架上のキリスト》P002903もあるが、その作品はベラスケスへの帰属に意見が分かれる。ここでは大型のP001167だけを扱い、二つの作品を混同しない。