何が描かれているか
荒れた海の中央に黒い蒸気船があり、煙、波、雪が周囲で渦を巻く。
水平線はほとんど消え、船のマストと明かりだけが位置を確かめる手がかりになる。蒸気船は黒い煙突とマスト、かすかな灯りでようやく見分けられる。波、雪、煙は境目を失い、船体を囲む円の中へ巻き込まれるように描かれている。
作品の見どころ
円を描くような筆触が画面全体を回り、遠くから眺める景色ではなく嵐の内部にいる感覚を作る。
茶、灰、白を重ね、船の輪郭をあえて不明瞭にすることで、見ること自体が難しい天候を表す。画面中央の暗い形を基点に、褐色、灰色、白の筆触が外側へ回る。遠近を示す水平線がほぼないため、風景を安全な場所から眺めるより嵐の運動そのものを追う見方になる。
制作背景
1842年にロイヤル・アカデミーへ出品された。題名には、作者が嵐を描くため船のマストへ縛らせたという説明が添えられた。
この逸話を裏づける同時代の記録は限られるため、実体験の正確な報告ではなく作品の受容史の一部として扱う必要がある。題名に添えられたマストの逸話は、作品を実体験の証明にする確かな記録ではない。伝承の真偽と、1842年に展覧会へ出された絵の強い渦巻く構成を分けて理解したい。