1889年6月
渦を巻く夜空に月と星が光り、下に小さな村と教会の尖塔。左手前に炎のような形の糸杉が立つ。
星月夜
The Starry Night / ニューヨーク近代美術館
夜の絵でありながら、昼のうちに何回かに分けて描かれた。窓から村は見えず、糸杉いとすぎも実際よりずっと手前にある。それでも空のうずは空想だけの形ではない。当時公表されていた星雲せいうんの観測図と一致する。見たものを写すのをやめ、感じたことを色と形で言う。近代絵画がそちらへ向かう入口に、この1枚が立っている。サン=レミの療養所りょうようじょで過ごした12か月のうち、1889年6月の作である。
何が描かれているか
夜空が画面の4分の3を占めている。渦を巻き、波のようにうねっている。右端に三日月、中央より少し左に金星が、それぞれ白と黄の輪に包まれて光る。
その下に、教会を囲む小さな村が静かに横たわる。尖塔せんとうは、背後の青黒い山なみより高く、鋭く突き出ている。空の激しさと比べると、村のほうは物音ひとつしない。
左手前に糸杉が1本。炎のような形で、画面の上端近くまで伸び、大地と空をつないでいる。糸杉は墓地の木、喪の木でもあった。地上の生と、天にたとえられる死を結ぶ橋——そう読むこともできる。
なぜ重要か
夜の絵でありながら、この絵は昼のうちに、何回かに分けて描かれた。見た条件とはまるで違う状況で仕上げられている。窓から村は見えなかったし、糸杉も実際よりずっと手前に描かれている。
見たものを写すのをやめて、感じたことを色と形で言う。ゴッホがここでやったのはそれである。青と黄を勢いよく置いた筆の跡は、外の世界を語ると同時に、絵の具そのものとしても目に入ってくる。近代絵画が気分・表現・象徴へ向かう入口に、この1枚が立っている。
制作背景
1889年6月、36歳。南フランスのサン=レミにある療養所で描かれた。サン=ポール=ド=モーソルという名の施設で、ゴッホは1889年から翌年にかけての12か月をここで過ごしている。
窓の外の眺めがきっかけになった。ただしそのまま写したわけではない。村は窓から見えず、別の眺めをもとにしている。教会の尖塔はフランスのものというより、彼が生まれたオランダでよく見る形をしている。
空の渦は、想像だけの形でもない。当時公表されていた、星雲——宇宙にあるちりとガスの雲——の観測図と一致する。ゴッホはこう書き残している。「星を見るといつも夢を見る。フランスの地図の黒い点に行けて、空の光の点には行けないのはなぜだろう。タラスコンやルーアンへ汽車で行くように、星へは死んで行くのだ」。
寸法
73.7 × 92.1 cm
材質・技法
カンヴァスに油彩ゆさい
所蔵
ニューヨーク近代美術館(MoMA)
目録
472.1941
出典:ニューヨーク近代美術館 作品ページ(2026-08-30 にオーナーが開いて内容を確認) / ニューヨーク近代美術館 公開所蔵データ(CC0)2026-08-29 確認)