荒野の聖ヒエロニムス
San Girolamo / ヴァチカン美術館
何が描かれているか
荒野でひざまずく老人と、その足元に横たわるライオン。描かれているのは聖ヒエロニムスで、ヴァチカン美術館の説明によれば、神学者であり、聖書の翻訳者だった人物である。
382年から386年にかけて福音書をギリシャ語からラテン語へ、390年から405年にかけて旧約聖書をヘブライ語から訳した。西方の教会が長く使うことになる聖書の、元をつくった人だ。
絵は下絵の段階で止まっていて、部分によって仕上がりの度合いが違う。色はほとんど無く、褐色の濃淡だけで体が起こされている。
なぜ重要か
ヴァチカン美術館は、この絵を「ルネサンスの巨匠の作品の中でも最も謎めいたものの一つ」と呼ぶ。来歴には確証が無い。それでも、レオナルドの作だという点は一度も疑われたことがない、と美術館は書いている。
未完成であることが、かえって価値になっている。美術館は、この絵が画家の創作の過程についての手がかりを与えるとし、素描の質の高さと、暗い部分に薄い層を重ねていく手つきの熟達を挙げる。仕上げる前の段階で、すでに腕が見えているということだ。
制作背景
制作は1481年から1482年の間と考えられている。ウフィツィ美術館にある《東方三博士の礼拝》とよく似ているから、というのが美術館の説明である。どちらも同じ時期に、下絵のまま置き去りにされた絵だ。
この板には、切り刻まれた過去がある。ナポレオンの叔父にあたるフェッシュ枢機卿が、偶然これを見つけた。伝承では2つに分かれていたと言われるが、実際には5つに切断されていた。枢機卿が、それを買い集めて組み直している。
1802年にはアンゲリカ・カウフマンという画家の手元にあった。枢機卿の死後、1845年にローマで競売にかけられ、弁護士の手に渡る。ヴァチカンが手に入れたのは1856年、質屋から省庁の委員会が買い取るという経路だった。
出典:ヴァチカン美術館 作品ページ / ヴァチカン美術館 オンライン目録(2026-08-29 確認)