1669年頃
36〜37歳
大きな赤い帽子をかぶった人物が、椅子の背に腕を掛けて振り返る。背後はタペストリー。
赤い帽子の女
Girl with the Red Hat / ナショナル・ギャラリー(ワシントン)
縦は23センチに満たない。フェルメールの絵の中でいちばん小さい部類で、いつも使っていた布ではなく、板に描かれている。娘は椅子の上で体をひねり、まっすぐこちらを見ている。館は、このくだけた感じと、その場かぎりの気配を、彼の作としては珍しいものだと書いている。手のひらに載るほどの板の上で起きている出来事である。
何が描かれているか
若い娘が椅子の上で体をひねり、肩ごしにこちらを見ている。口はわずかに開いていて、何か言いかけたようにも見える。
かぶっているのは、大きく張り出した緋色の帽子。羽根が重なり、縁が目のあたりに影を落としている。上着は青く、白い光が筋になって置かれている。首もとに白い襟、耳に真珠。
背後には緑と金の模様の壁掛けがある。画面の下の隅には、椅子の背に彫られた獅子の頭が、左右に一つずつ見えている。娘はその椅子に、後ろ向きに腰かけていることになる。
なぜ重要か
館によれば、この絵はフェルメールの作としては最も小さい部類に入る。しかも支えは板で、彼がふだん使っていた布ではない。大きさも材料も、いつもの仕事とは違っている。
館は、娘がまっすぐこちらを見ることで、見ている側とのやりとりが生まれる、と書いている。かしこまった肖像ではなく、ふいに振り向いたところである。館はそれを、彼の作としては珍しい気安さだと見ている。
制作背景
1696年5月16日の競売に、この絵が出ていた見込みが高い。館は目録の39番か40番だろうとしている。38番は、古風な衣裳の頭部画でたぐいまれに巧み、と書かれ、39番はそれと同じ作者のもう一点、40番はその対になる一点、とだけ記されている。
19世紀にはパリのラフォンテーヌの手にあり、1822年12月の競売に出た。そのあとコルマールのアタラン男爵が持ち、子孫へ伝わっていく。
男爵がどこで手に入れたのかは、家に二つの言い伝えがある。1983年に子孫が館へ書き送った手紙では、1822年の競売で買ったのだろうという。ところが同じ家の別の伝えでは、店先の窓に飾ってあるのを見て買ったのだという。1925年11月にアンドリュー・メロンが買い、1937年に館へ贈られた。
フェルメールは父の跡を継いで、絵を売る仕事もしていた。館によれば、絵の修業をどこで積んだのかを示す記録は残っていない。1660年代と70年代に画家の組合の頭を四度つとめたが、1675年に亡くなったときは多額の借りを残していた。
寸法
22.8 × 18 cm
材質・技法
板に油彩ゆさい
所蔵
ナショナル・ギャラリー(ワシントンD.C.)
目録
1937.1.53
ほか
フェルメールでは珍しい板絵
出典:ワシントン・ナショナル・ギャラリー 作品ページ2026-08-29 確認)