1511年
27〜28歳
教皇ユリウス2世の肖像。髭をたくわえた教皇が緑の背景の前で斜め向きに座り、両手を静かに置いて視線を落としている。
教皇ユリウス2世の肖像
Pope Julius II / ナショナル・ギャラリー(ロンドン)
教皇は真正面から権威を示すのではなく、椅子に斜め向きに座り、視線を落としている。見る側は、公の儀式よりも静かな時間に近づいたように感じる。表情を「疲れている」と決めつける前に、身体の向き、伏せた目、握った手を一つずつ見たい。人物の内面を想像させる距離が、この肖像の大きな特徴である。
何が描かれているか
ひげをたくわえた教皇ユリウス2世が、三四分身、つまり頭から膝あたりまでの姿で斜め向きに座る。椅子には二つの金色のどんぐりがある。これは、イタリア語で樫を意味する「ローヴェレ」という教皇家の名を示す印である。小さな装飾にも、描かれた人物の家系が組み込まれている。
衣服の色や椅子の装飾は目に入りやすいが、まず身体が画面のどちらへ向くかを確認したい。顔は正面ではなく、手も大きな身ぶりをしていない。権力を示す持ち物だけでなく、座る姿勢と視線の低さが、見る側との距離を決めている。
なぜ重要か
この近い構図こうずは、後世の教皇や統治者の肖像に広く影響した。権力者を、紋章や衣装だけで説明するのではなく、一人の身体として画面の近くへ置く方法である。後の肖像画と見比べるときは、座る角度、画面との距離、手をどこまで見せるかを比べるとよい。
人物の気持ちは画面に言葉で書かれていないため、「疲労」「不安」など一つの感情へ決めつけない方がよい。それでも、正面を避けた姿勢や伏せた視線から、見る側が心理的な近さを感じることはできる。事実として見える姿勢と、そこから受ける印象を分けて言葉にしたい。
制作背景
作品は1511年とされる。技術調査では、現在の緑の背景の下に、教皇の鍵や司教冠を配した別の背景案が見つかった。緑色は後世の誰かが全面的に塗り替えたものではなく、制作中にラファエロ自身が変更したと判断されている。完成画の落ち着いた背景の下にも、構想を変えた過程が隠れている。
完成した絵だけを見ると、背景は最初から緑だったように感じられる。技術調査は、目に見えない下層から制作途中の判断を知らせてくれる。どんぐりのように残された印と、塗り替えられて見えなくなった印。その両方を考えると、肖像が一度の決定で完成したのではないことが分かる。
寸法
108.7 × 81 cm
材質・技法
ポプラ板に油彩ゆさい
所蔵
ナショナル・ギャラリー(ロンドン)
目録
NG27
椅子の印
デッラ・ローヴェレ家を示すどんぐり
出典:ナショナル・ギャラリー 作品ページ / ナショナル・ギャラリー 作品総目録2026-09-06 確認)
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画像:ラファエロ教皇ユリウス2世の肖像》/Raphael, Portrait of Pope Julius II, National Gallery, London. Reproduction: Web Gallery of Art, via Wikimedia Commons.
画像の出典 / Public Domain Mark 1.0 / PD-Art(法域注意)(画像情報:2026-09-06 確認)
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