1889年5月
画面いっぱいに咲く青紫のアイリス。左寄りに1本だけ白い花があり、上には橙色の花、手前は赤茶けた土。
アイリス(ロサンゼルス)
Irises / J・ポール・ゲティ美術館
自分の意思で療養所りょうようじょに入り、その最初の1週間で庭に出て描き始めた絵である。ここで過ごす最後の1年に130点近くが生まれる、その口火を切った1枚。本人は「習作しゅうさく」と考えていた。下描きも残っていない。ところが弟テオはすぐ価値を見抜き、その年の9月にアンデパンダン展へ出品している。最初の持ち主は批評家オクターヴ・ミルボー。ゴッホをいち早く支持した1人である。
何が描かれているか
青紫のアイリスが、画面いっぱいに咲いている。左のほうに1本だけ白い花がまじる。上には橙色の花が広がり、手前は赤茶けた土である。
花はどれも形が違う。ゴッホは1本ずつの動きと形を調べて描いた。波打つ線、ねじれる線、丸まる線——輪郭りんかくの作り方を変えることで、同じ種類の花が全部違う姿になっている。同じ花を並べて描いているのに、繰り返しの退屈さがない。
絵の縁で花が切れている。画面をいくつかの大きな色の面に分ける組み立て方とあわせて、日本の版画はんがの飾り方から来ていると考えられている。ゲティ美術館はそう説明している。
なぜ重要か
1889年5月、ゴッホは自分から療養所に入った。その最初の1週間で、庭に出て描き始めたのがこの絵である。ここで過ごす最後の1年に、彼は130点近くを描くことになる。その口火を切った1枚にあたる。
本人はこれを「習作」と考えていた。下描きも残っていない。ところが弟テオはすぐに価値を見抜き、その年の9月、アンデパンダン展に出品している。テオはこう書き送った。「遠くからでも目を打つ。空気と生命に満ちた美しい習作だ」。
制作背景
1889年5月、36歳。南フランスのサン=レミにある療養所の庭で描かれた。
療養所に入る前、ゴッホは自傷と入院を繰り返していた。そこから自分の意思で施設に入り、入ってすぐ庭に出て、目の前の花を描き始めている。閉じ込められた場所で最初にしたことが、外に出て花を見ることだった。
最初の持ち主は、フランスの批評家オクターヴ・ミルボーだった。ゴッホをいち早く支持した1人である。ミルボーはこう書いている。「花というものの、この上なく繊細なところを、彼はなんとよく分かっていたことか」。
寸法
74.3 × 94.3 cm
材質・技法
カンヴァスに油彩ゆさい
所蔵
J・ポール・ゲティ美術館(ロサンゼルス)
目録
90.PA.20
出典:J・ポール・ゲティ美術館 所蔵データ(IIIF・解説文は CC BY 4.0)2026-08-29 確認)