白い衣と甲冑を着けたハンニバルが右手を上げ、背後に軍勢が続く。後の宮廷肖像や《黒い絵》とは大きく異なる、イタリア修業期の歴史画である。まず中央の明るい人物と、その奥へ連なる旗、馬、象を追いたい。
何が描かれているか
ハンニバルは画面中央で身体をひねり、遠くを見るように顔を上げる。
背後には翼のある人物、旗を持つ兵士、騎馬、象が重なり、長い移動の先に軍が山を越えてきたことを示す。手前の赤褐色の人物と左奥の軍勢が、明るい中心人物を挟んでいる。
作品の見どころ
ここでの主役は一人の肖像ではなく、古代史の出来事を担う英雄である。人物、動物、雲、風になびく布を一画面へ組み込み、大きな物語を読ませようとしている。
後年のゴヤを暗い画面の画家としてだけ覚えず、まず歴史画の競技へ挑んだ若い時期から出発できる一枚である。まず白い衣のハンニバルを見て、掲げた腕の先から旗、騎馬、象へ奥へ進むと、単独の英雄像ではなく軍を伴う歴史画だと分かる。手前と奥の縮尺の差が、越えてきた距離を想像させる。
制作背景
作品はカンヴァスに油彩、88×132センチで、プラド美術館が目録番号P00753として所蔵する。1771年4月、パルマ美術アカデミーの競技へ出品されたが、一等には選ばれなかった。
完成された巨匠の予告として持ち上げるより、国際的な評価の場へ挑戦していた若い画家の現在地として見る。