何が描かれているか
中央のキリストは赤い衣をまとい、右腕を振り上げる。商人たちは身体をよじって左右へ逃れ、手前には籠、硬貨、動物が散らばる。
新約聖書でキリストが神殿から商人を追い払う場面。聖人の静かな正面像ではなく、押す、逃げる、倒れるという動作が連なっている。中央から外へ押し出される身体の向きを追うと、騒ぎが広がる順序まで見えてくる。
作品の見どころ
赤い衣を最初の目印にし、腕の向きから左右へ視線を動かそう。小さな人物が密集していても、キリストを中心に動きが広がる構図を追いやすい。
右下には、過去の巨匠を思わせる小さな肖像が描かれる。若い画家がイタリアで見た美術と、自分の署名のような工夫を同じ画面に置いた。人物の腕や背中が作る斜線を比べると、狭い画面の中に衝突の勢いが生まれている。
制作背景
1570年以前頃の初期作で、クレタからヴェネツィア、ローマへ移る時期に当たる。エル・グレコは同じ主題を後にも描いており、表現の変化を比べられる。
所蔵館はワシントン・ナショナル・ギャラリー。制作年は一つの年に確定せず、初期のイタリア滞在期を示す幅として受け取る。後年の同主題作と比べる際は、人物の配置や背景が同じとは限らないことにも注意したい。