何が描かれているか
中央のラオコーンと息子たちは裸で地面に倒れ、蛇と格闘する。左から馬が走り、遠景には古代都市トロイアではなくトレドの町が見える。
ギリシャ神話では、神官ラオコーンはトロイアの木馬を警告した後、息子たちと蛇に襲われる。エル・グレコが描いた、現存する珍しい神話画である。手前の三人は互いに離れて倒れ、左の馬と遠い都市が横長の空間をさらに引き延ばす。
作品の見どころ
身体の輪郭を一本ずつ追うと、人物が横、斜め、縦にばらばらの方向へ引かれている。蛇だけでなく、画面全体が身体を引き裂くような構成になっている。
肌の灰色、草の緑、空の青が冷たく重なる。神話を遠い昔に閉じ込めず、見慣れたトレドの風景へ置くことで、不安を現在の出来事のように近づける。蛇の細い曲線と人物の長い手足を交互に追うと、身体がほどけていくような不安が強まる。
制作背景
1610〜1614年頃の晩年作で、現在はワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵。制作事情や注文主は確定していない。
1614年の遺産目録に記された《ラオコーン》の一つと考えられるが、同一性は確定しない。可能性を事実のように言い切らない。注文主も目録との完全な対応も分からないため、晩年の神話画という範囲を越えて断定しない。