何が描かれているか
聖母マリアが幼子キリストを抱き、二人が頬を寄せる。幼子は母の白いヴェールを指で持ち上げ、聖母は少し悲しげな目で子を見つめる。
下端には石の欄干のような帯があり、聖母子の身体を途中で隠す。金地の聖なる空間と、見る人が立つ現実の側を隔てる境界として働く。
作品の見どころ
幼子の小さな手とヴェールの動きが、母子の親密さをつくる。しかし聖母の表情は喜びだけではなく、後の受難を予感するような静かな悲しみを含む。
欄干は遠近法として完全ではないが、人物がその向こう側にいるという錯覚を生む。小さな板絵を近くで見る人と聖母子の距離を、画面の縁そのものが意識させる。
制作背景
1290〜1300年頃の小型礼拝画で、メトロポリタン美術館が所蔵する。大聖堂の公的な祭壇画とは異なり、個人が近い距離で祈るために使われた可能性が高い。
メトロポリタン美術館は、下端の欄干を西洋絵画における初期の錯視的要素として重視する。金地の象徴性と、目の前に人物がいるような親密さが同居する作品である。