1889年6月末
画面いっぱいに立つ濃い緑の糸杉。空は渦を巻き、右上に細い三日月。手前は黄色い草むら。
糸杉いとすぎ
Cypresses / メトロポリタン美術館
同じ時期に、彼はこの木を2通りに描いている。縦長に近づいて木そのものを立たせたのがこの絵で、横長に引いて畑ごと収めたのが《麦畑と糸杉》である。どちらもメトロポリタン美術館にあるが、並べて見られる機会は多くない。糸杉は南フランスの田舎のあちこちに立っていて、北のオランダから来た彼を強く引きつけた。太くて背が高く、色は黒に近い。遠くからでもすぐそれと分かる木である。
何が描かれているか
濃い緑の糸杉が2本、画面いっぱいに立っている。空はうずを巻き、右上には細い三日月。手前には黄色い草むらと白い花が広がる。縦長の画面が、木の高さをそのまま伝えてくる。
絵の具が厚くられている。枝は炎のようにねじれながら、上へ上へと伸びていく。ゴッホはこの木を「線と釣り合いの点で美しい、エジプトのオベリスクのようだ」と書いた。オベリスクは、古代エジプトの細長い石の塔である。
同時に彼は、この木の難しさもよく分かっていた。「日に焼けた風景のなかの暗いしみだ。けれど思いつくかぎり、いちばん面白い暗さで、いちばん正確に射止めるのが難しい」。
なぜ重要か
1889年6月末、療養所りょうようじょに入って間もない頃、ゴッホは糸杉を連作れんさくの題材にすると決めた。この木は南フランスの田舎のあちこちに立っていて、北のオランダから来た彼を強く引きつけた。太くて背が高く、色は黒に近く、遠くからでもすぐそれと分かる。
この絵は、木に近づいて縦長にとらえた2点のうちの1つである(もう1点はオッテルローのクレラー・ミュラー美術館にある)。1890年のアンデパンダン展に出品された。ゴッホが亡くなる年のことだった。
制作背景
1889年6月末、36歳。サン=レミの療養所での1年が始まって、まもない頃に描かれた。
糸杉はゴッホにとって、難しくて面白い相手だった。明るい風景のなかで、そこだけが暗い。その暗さを正確に置くのが、彼には最も難しい仕事だった。
同じ時期に、彼は横長の《麦畑と糸杉》も描いている。縦と横、木に近づいた眺めと、引いて畑ごと見た眺め。同じ木を違うやり方でとらえた2枚が、どちらもメトロポリタン美術館にある。並べて見られる機会は多くない。
寸法
93.4 × 74 cm
材質・技法
カンヴァスに油彩ゆさい
所蔵
メトロポリタン美術館(ニューヨーク)825室
目録
49.30
出典:メトロポリタン美術館 作品ページ2026-08-29 確認)