アペレスの誹謗
Calunnia di Apelle (Calumny of Apelles) / ウフィツィ美術館(フィレンツェ)
豪華な建物の中で、無実の若者が「誹謗」という女性に引きずられていく。周囲の人物は、無知、疑い、欺き、後悔、真実など、目に見えない働きを人の姿にしたものだ。左から右へ事件を追うのではなく、右の王から中央の集団、左の真実へ視線を移すと関係が分かりやすい。
何が描かれているか
右端の王は長い耳を持ち、「無知」と「疑い」にささやかれている。その前では「誹謗」が無実の若者を引きずり、「欺き」などの人物が彼女を飾る。左側では黒い衣の「後悔」が振り返り、裸の「真実」が天を指している。
これは特定の裁判をそのまま描いた場面ではなく、誹謗が広がり、誤った判断が行われる仕組みを人物に置き換えた寓意画である。人物の美しさだけを見ると関係が分かりにくいが、誰が誰の耳元にいて、誰が誰をつかむかを追うと、情報がゆがむ流れが見える。
なぜ重要か
ボッティチェリは、古代ギリシャの画家アペレスによる失われた絵を、古代の著述家ルキアノスが残した文章から再構成した。原画を直接見て写したのではない。文章で伝わった人物と関係を、ルネサンスの建築と身体表現を使って新しい絵にしたのである。
この成り立ちは、古代文化の「復活」が単純な複製ではなかったことを示す。失われた作品について読むこと、内容を解釈すること、自分の画面として構成することが必要だった。中央の激しい群像と左の孤立した真実を比べると、文章から視覚的な対立を作った方法が見えてくる。
制作背景
ボッティチェリ自身が誹謗を受けたために描いたという説明があるが、それを直接証明する資料はない。題材と画家の個人的体験を結びつける説としては興味深いものの、事実としては扱わない。社会的な混乱が続く1490年代の作品であることと、個人的動機が確定することも別である。
縦62センチ、横91センチのテンペラによる板絵で、建築装飾と多くの人物が小さな画面に詰め込まれている。一部にバルトロメオ・ディ・ジョヴァンニの協力があった可能性も指摘されるが、担当範囲は確定していない。作品名を一人の画家に結びつけつつ、工房や協力の可能性も残しておく。
制作動機と協力者は可能性にとどまります
ボッティチェリ自身が誹謗を受けたために描いたという説と、建築装飾へのバルトロメオ・ディ・ジョヴァンニの参加は確定していません。
出典:ウフィツィ美術館 作品ページ(2026-09-06 確認)
画像はWikimedia CommonsのPD-Art複製です。忠実複製の扱いには法域差があります。
画像:サンドロ・ボッティチェリ《アペレスの誹謗》/Sandro Botticelli, Calumny of Apelles, Uffizi. The Yorck Project, via Wikimedia Commons.
Wikimedia CommonsのPD-Art複製です。忠実複製とイタリア文化財制度の扱いには法域差があります。
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