1485年頃
39〜40歳頃
ヴィーナスの誕生。貝に乗ったヴィーナスが風に運ばれて岸へ着き、右側の女神が花模様の衣を差し出す。
ヴィーナスの誕生
Nascita di Venere (Birth of Venus) / ウフィツィ美術館(フィレンツェ)
題名は「誕生」だが、描かれているのは海から生まれる瞬間ではなく、ヴィーナスが貝に乗ってキプロス島へ着く場面である。左から風が吹き、右から衣が差し出され、中央の女神へ動きが集まる。髪、波、衣の流れを左から右へ追ってみたい。
何が描かれているか
愛と美の女神ヴィーナスが、大きな貝の上に立って岸へ運ばれてくる。左では風の神とその伴侶が息を吹きかけ、右では季節の女神が花模様の衣を広げて迎える。中央の身体は静止して見えるが、その周囲では風、髪、布、波が動いている。
ヴィーナスの立ち姿は、片脚へ体重をかけた古代彫刻の型を思わせる。風を起こす二人の姿にも、古代の宝石に刻まれた図像との関係が指摘されている。古代の形をそのまま写すのではなく、線の流れと大画面の物語へ組み直している。
なぜ重要か
ルネサンスの画家が古代文化をどう受け止めたかを、見た目から理解しやすい作品である。キリスト教の聖人ではなく古代の女神を、ほぼ等身大より大きく描いた。古代の主題が同時代のフィレンツェで新しい絵画として作られた点に、この作品の歴史的な面白さがある。
有名な題名に引っぱられると、誕生の瞬間を探してしまう。実際の動作は「到着」であり、左の風と右の衣がその出来事を示している。題名と画面のずれに気づくと、知っている物語を当てはめるだけでなく、絵に何があるかを観察する入口になる。
中央の身体だけを切り取って見ると静かな像に見えるが、全景では左から右へ進む動きの途中にいる。ヴィーナスの足元の貝、岸との距離、待ち受ける衣を順に見ると、物語がこれから陸へ続く瞬間だと読み取れる。
制作背景
作品はテンペラでキャンバスに描かれ、縦172.5センチ、横278.5センチである。板絵が多い時代に、大きな布の支持体を使っている。横長の画面は、海から岸へ進む動きを広く見せる。
メディチ家のために制作された可能性は高いと考えられているが、制作時の注文書は残っていない。作品の記録が確認できるのは1550年以後である。「メディチ家の注文」と紹介されることが多いものの、ここでは有力な説として扱い、確定とはしない。
メディチ家の注文は有力な説です
メディチ家の一員が注文した可能性は高いと考えられていますが、制作時の注文書は残らず、作品の文書記録は1550年以後です。
寸法
172.5 × 278.5 cm
材質・技法
カンヴァスにテンペラ
所蔵
ウフィツィ美術館(フィレンツェ)
目録
1890 n. 878
場面
海からキプロス島へ到着するヴィーナス
出典:ウフィツィ美術館 作品ページ2026-09-06 確認)
画像はWikimedia CommonsのPD-Art複製です。忠実複製の扱いには法域差があります。
画像:サンドロ・ボッティチェリヴィーナスの誕生》/Sandro Botticelli, The Birth of Venus, Uffizi. Google Arts & Culture, via Wikimedia Commons.
画像の出典 / Public Domain Mark 1.0 / PD-Art(法域注意)(画像情報:2026-09-06 確認)
Wikimedia CommonsのPD-Art複製です。忠実複製とイタリア文化財制度の扱いには法域差があります。
間違いを見つけたら、教えてください →